- 2023.12.20
- CategoryDETOX
体内メカニズムが解き明かす、断食の驚くべき効果
一般的に健康的な食生活とは、「1日3食しっかり食べること」とされています。この教えからいうと、断食は相対的な健康法になりますが、前項で「食べない」ことが健康につながると説明しました。そこでもっと詳細に断食のメカニズムを見ていきましょう。
断食が体に及ぼすメカニズム①
細胞の活性化。細胞の老化を防ぎ、寿命を延ばす
もともと断食は、宗教行為として古来より行われてきました。しかし、その中で、断食がもたらす体への好影響に気づき、健康法や疾患の予防法として注目が集まってきました。では、断食を行うと、体の中ではどのような変化が起こるのでしょうか。
簡単にいうと、「細胞の老化を遅らせて、寿命を延ばす」ことです。最近の研究から、断食は老化を遅らせ、さまざまな疾患を予防できることが明らかになってきています。
私たちの体は約60兆個の細胞が集まってできていますが、これらの細胞は日々老化しているのです。老化の原因としては、細胞内のタンパク質やDNAが酸化によるダメージを受ける、不要なタンパク質が蓄積するなどがあげられますが、断食は細胞を老化に導く原因を取り除く働きがあることがわかってきています。
人間以外の生き物を使った研究で、断食によって老化を遅らせた結果、寿命が延びたという報告がされています。たとえば、実験でよく使われている、大腸菌や酵母菌といった細菌を、栄養をなくした断食と同じ環境で飼育したところ、通常の2~4倍も寿命が長くなったという研究報告があります。また、線虫やハエなども、断食によって寿命が延びることが報告されています。
これらの生物は断食状態にすることによって、細胞内に変化が起こることがわかっています。たとえば、細胞を保護するタンパク質である「ヒートショックプロテイン」や、細胞を傷つける活性酸素を取り除く酵素である「スーパーオキシドジスムターゼ」などの量が増加するのです。これらによって細胞を老化から守る働きが強化され、寿命が延びたと考えられています。このことは人間でも同じように反応が起こると考えられますが、人を使った臨床実験がまだ行われていないので確かなことはいえません。
しかし、他にも断食が人間の細胞にもたらす影響がわかっています。
南カリフォルニア大学 (USC)のヴァルター・ロンゴ教授率いる研究チームによると、「断食を3日間行えば古い免愛細胞がご一掃され、新たな細胞が産生され始める」との研究結果が2014年に発表されました。そして断食によって免疫細胞が再生されることで心血管の状態が改善され、持久力が向上するほか、血圧の低下や炎症の改善といった利点がもたらされるとのことです。
断食が体に及ぼすメカニズム②
代謝エネルギーの消費。体内の不要な物質をつくり変える
断食を行うと、外から栄養を取り込めなくなります。そうなると、人間の体はすでに体の中にある物質を使ってエネルギーにつくり変える作業に入ります。
体の中にあるエネルギーに変える物質には大きく分けて3つあります。糖質、筋肉、そして脂肪です。外からエネルギーが取り込めない時、体はまず優先的に糖質を消費します。糖質はブドウ糖に変化して血液中を巡っているほか、肝臓の中に蓄えられています。
しかし、12時間~24時間ほど断食をすると、血液中のブドウ糖は20%ほど低下し、肝臓にあるブドウ糖も少なくなっていきます。この状況で引き起こるのが、「インスリン」の量の減少です。インスリンは血液中のブドウ糖の濃度が上がると分泌され、肝臓にブドウ糖を蓄えるように働きかけますが、断食中にはインスリンの出る幕がないため、その量が減るのです。
実はこのインスリンは、細胞の老化を抑えるタンパク質を働かせなくして、老化を促進する側面もあることが知られています。食べ物をとらなくなり、インスリンが減少すると、老化を抑えるタンパク質が働きやすくなり、細胞の老化を遅らせることができるのです。
断食で健康効果が得られるのは、食べ物をとらないことで代謝エネルギー源が脂肪からケトン体に切り替えられるためだとされています。通常の1日3食の生活では、私たちの体は常にエネルギー源として脂肪を吸収しています。そして、体はその脂肪が使い果たされた時、脂肪酸とケトン体をエネルギー源として使い始めるのです。
このケトン体はエネルギーを提供するだけではなく、健康状態の改善や加齢の進行に影響を及ぼす活動にも関連しているといわれています。
つまり、断食によって体内のエネルギー源の切り替えが行われ、健康効果をもたらしているのです。食事を続けている限りは体は脂肪に依存し、この切り替えを行うことはありません。
断食が体に及ぼすメカニズム③
オートファジー。不要なタンパク質を除去
断食により、栄養源を外から取り込めなくなると、体はあらゆる方法でそれを補おうとします。その1つが、2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典先生の研究テーマであった「オートファジー」と呼ばれる方法です。オートファジーとは、細胞の中にすでにある不要なタンパク質を分解する現象です。
生物が生きていくためには、さまざまなタンパク質の働きが久かせませんが、断食によってタンパク質をつくる材料(アミノ酸)が得られなくなると、必要なタンパク質を十分につくることができなくなります。そこで、すでにある優先順位の低い不要なタンパク質を分解してアミノ酸をつくり、そのアミノ酸を使って新たに優先順位の高い必要なタンパク質をつくるのです。
これは飢餓状態に陥って背に腹は代えられないと考えた脳が出す、一時的な苦肉の策の指令です。しかし、オートファジーによって細胞の不要なタンパク質が除去されることになり、その結果病気の予防につながるのです。
アルツハイマー病の引き金となるのは、「アミロイドB」と呼ばれる不要なタンパク質の蓄積といわれています。このように不要なタンパク質の蓄積は老化や疾患を引き起こすことがあるのです。
細胞内の環境が整備されることは、老化の予防につながります。このことも近年わかってきた、断食の効果といえます。
”世界の断食最新研究” 科学で証明されている断食の効果
断食は治療方法として活用されているドイツ、ロシア、フランス、アメリカでは断食療法を科学で解明するために、最新の研究が行われています。
しかし、日本では私の知る限りでは、断食療法の科学的研究は行われていません。それは断食療法の研究が進めば、おそらく薬を使うのと同じレベルの治療法として認められてしまうから。そうなると、現在ヘルスケア市場を独占している医薬品の売り上げが減ることになります。製薬業の抵抗は必至と推測されます。
日本では断食療法の研究に資金を集めるのは困難でしょう。しかし、欧米諸国では断食療法の研究が盛んに行われてきています。ここでは欧州の断食療法の実態と断食に関する最新の研究を紹介しましょう。
ロシア
約60年前、ロシアのモスクワ第一医科大学のユーリ・ニコラエフ医師が断食の先駆的な研究を開始し、精神疾患患者を対象にした断食治療の科学的な臨床試験を行いました。8000人の患者のうち、70%が改善し、そのうち47%は6年後も良好な状態を維持したと発表され、医学界に驚きをもたらしました。
ニコラエフ医師が注目されたのは、精神疾患だけでなく、高血圧、関節炎、喘息、皮膚炎など様々な病気が断食によって改善されたことでした。1973年に旧ソ連で行われた報告の検証プロジェクトでも、多くの病気に対する断食の効果が確認されました。
アレクセイ・ココソフ教授は、断食がもたらすストレスによって体の回復メカニズムや自己調節力が目覚めると説明し、喘息患者に対する断食療法の研究では、体全体と呼吸器の変化を調査し、ヒスタミンの不活性化による炎症の改善を確認しました。
しかし、ソ連の崩壊とともに医療制度も変わり、断食療法は保険対象外となりました。しかし、ロシアのブリヤート共和国では今でも健康保険で断食療法を受けることができ、バイカル湖の近くのゴリアチンスク病院では、1995年以降、断食療法が医療の一環として提供され、国の保険が適用されています。
フランス
フランスでは、南極に住む皇帝ペンギンの生態に関するユニークな研究が展開されています。フランス国立科学センターのイボン・ル・マオ教授は、寒冷な冬の4ヶ月間、卵の上でメスを待ちながらエサを摂らない皇帝ペンギンのオスに注目し、タンパク質の量に迫る調査を開始しました。
通常、エサがない状態では体は自らの物質からエネルギー源を得るため、タンパク質が消費されることが一般的です。しかし、ペンギンは驚くべきことに長期間の断食を乗り越えています。果たして、本当にペンギンの体はタンパク質を消費してしまうのでしょうか?
研究の成果によれば、断食中のペンギンのエネルギー源は、驚くことにタンパク質がわずか4%で、脂質が94%、残りの2%はブドウ糖をエネルギーとして活用していることが明らかになりました。ペンギンの体は、タンパク質を維持しながらも生存していく驚異的な仕組みを備えていたのです。
断食開始時、ペンギンは体内に蓄えられたブドウ糖を利用し、約24時間で使い果たします。その後、不要なタンパク質からブドウ糖を生成し、エネルギー源とします。しかし、48時間が経過すると、タンパク質を節約し、脂質をエネルギーに変えるケトン体の生成が始まります。この過程はペンギンの体の脂質の量に依存しますが、驚くべきことに長期間にわたり存続していくのです。
体内の脂質の80%を使い切ると、タンパク質を使わないわけにはいかなくなります。この状態までくると命にかかわります。しかし計算上、平均体重の人が脂質を80%使い切るのに40日間もかかるといわれています。ペンギンの実験結果は、他の動物実験でもほぼ同じ結果が出ています。
ベルリン大学附属病院のミッセルセン教授はインタビューで、「進化の歴史の中で、その種が生き残れるかは断食できる期間の長さによると考えられる。規則正しく食事をして冷蔵庫にたっぷり食べ物がある、今日の人間の暮らしは、人類の歴史の中でも稀なことです。断食をしないで常に食べ続けていれば、体が異常をきたすのは当然のことです。私たちの遺伝子は断食期間よりも、今の飽食のほうに対応できないのではないでしょうか。断食は体が記憶している、生きるための力を呼び覚まします」と語っています。
アメリカ
出典:「スーパーフーズモリンガ断食 断食施設に21年間勤めた私が学んだ断食メソッド」吉田益也 (著) 出版社:徳間書店